第一章 終わりの始まり

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その日の夜に、一人暮らしをして遠くの大学に通っている姉から親に連絡がきた。世界が終わるなら明日にでも帰省をしてくるというものだった。しかし世の中考えることは皆同じみたいで、飛行機のチケットも新幹線のチケットも取ることができなかった。そもそも飛行機も公共交通機関もまともに動くか分からなかった。 両親は車の免許を持っておらず、自家用車で迎えに行くという道も閉ざされていた。 母との電話越しに姉の泣いている声が漏れ聞こえてきた。 僕は姉とあまり仲が良くなかったが、しっかり者で気の強い姉が泣いている声を始めて聞いたと思う。姉の声を聞いて、生きているうちに二度と姉と会えないかもしれない、本当に世界が終わるのだという実感が僕を襲った。 父が気を強く持つように姉を慰め、電車やバスを乗り継げば何とか帰ってこれるのではないかと元気づけた。 父は明るい口調で振る舞い姉を不安にさせまいとしていたが、その表情は暗いものだった。 僕の方でも数カ月ぶりで姉にメッセージを送った。 姉もだいぶ落ち着いたようで、いつも通りの口調で返事が返ってきた。 姉が一人暮らしをし始めてから、滅多に連絡を取ることもなかったし、連絡を取ったとしても事務的な内容のことばかりだった。 僕は思い切って、姉にいろんなことを聞いた。 大学のことや、将来のこと。彼氏はできたのか、バイトはしてるのか。姉弟なのに今まで知らなかったし、知ろうともしなかったことを聞いてみた。姉も嫌がったり恥ずかしがったりせずに誠実に答えてくれた。 もちろん、同じ内容を聞き返されたけれども。 気恥ずかしい感じもしたが、僕もできる範囲で答えた。大学はとりあえず姉と同じように進学だけはしようと考えていること、将来やりたいことは大学の間に見つけようと思っていること。彼女はいないけど可愛いなと気になっている同じクラスの女子がいること、バイトは親が許してくれないからやっていないこと。
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