1:この後一杯どうです

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 ベッドに仰向けになった興梠は静かに寝息をたてていた。胸が上下し、膨らむたびにスー、と息を吸う音がする。  彼女の足元、ベッドの縁に腰かける俺は、すぐ傍に置いてあるリモコンに手を伸ばす。赤いボタンひとつで賑やかしいタレントの声がやんだ。睦言に夢中で活躍するかどうかもわからないホテルのテレビのくせに、俺の部屋のより大きくて高そうに見えたのだ。映り具合もまあまあだった。  眠る興梠の傍らに移動し、頭の横に手をついて白い顔を見下ろす。手の甲でそっと髪をどかすと、細い首筋があらわになった。中指で縦になぞると、ある個所が熱を帯びた。血が通っている。生きている。  その場所を見失わないように指で抑えて首筋に顔を埋めた。歯をあてがうと、ぷつりと肌が割れる音がした。 「はっ」  瞬間、興梠が声を発した。驚いて身を引くより先に彼女の両足が俺の背中で交差する。がくん、と体重が興梠にかかるのを腕をつっぱってこらえた。 「なんだっ」  両腕が俺の首に回る。ものすごい力だった。驚いて彼女を見ると、目を充血させ、口から糸を引きながら、むこうも驚いた表情で俺を見ていた。  ほとんど同時にお互いが飛びのいた。興梠は枕元に、俺は反対側に、それぞれ尻もちをつくような姿勢で。腕があたって、テレビのリモコンが床に落ちた。
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