1:この後一杯どうです

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「お前、なんだ」 「佐藤さんこそ……あなたもしかして……」  大きな瞳が、白い皿の中をぎょろりと動く。充血は少し収まっていた。 「俺、吸血鬼」 「私、絡新婦(じょろうぐも)です」  なんてことだ。それまでの盛り上がりが、今夜の計画が、期待が、高揚が、一気に萎んでいくのを感じた。 「マジか……」  と、言うのが精一杯だった。  進化という言葉があるように、生物は形態をグレードアップさせることがある。かつて地上にはティラノサウルス・レックスが、海中にはメガロドンが生息していたように、昔はなんでも大きかった。いまは巨大生物などせいぜいクジラかダイオウイカくらいではないか。いきなり隕石をぶつけられた彼らには同情するが、命というものは、環境と身の丈にあった進化に成功した者が勝ち上がれるシステムである。  俺たち妖怪も同じことをした。進化の過程なんていちいち誰も覚えていないと思うが、国際交流をし、人間の世界に交じり、無闇やたらと恐怖を与えずとも生きている。妖怪としてのプライドなどというものは現代社会には通用しない。戦国時代の大和魂を引き継いでいる人間が現代にいるか、いない。価値観を変え、寿命を延ばし、免疫をつけて彼らは、俺たちは、社会に混じる。  太陽にあぶられて焼け死んだり、十字架に怯えて暮らす生活は終わったのだ。殺すほど血を吸わなくても平気だ。
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