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ただ、細胞レベルで遺る性というのはどうしてもあって、個体差もあると思うが、美女の生き血というのはとても美味いのだ。俺はときどき夜中にふらりと出かけては適当な女性を引っかけて血を吸っていた。相手にとっては泣き寝入りかもしれないが、吸血以外の乱暴は働いていないので許して貰いたい。
知人や同僚に手を出すのはさすがに危険なので避けていたが、興梠は美少女だったから気を許してしまった。もし興梠が人間だったら成功していただろうし、きちんと家まで送り届けて潔白を証明することもできたろう。
まさか、同じく現代妖怪がこんな身近に潜んでいたなんて誰が思う。
俺よりもショックを受けたのは興梠のほうだった。頭を抱え、「イヤー!」と耳を塞ぎたくなるような甲高い悲鳴を上げた。同族と知って急激に萎えていた俺は自然に眉をしかめた。
「うるさいぞ」
「嘘だと言ってください佐藤さん!」
「なにがだよ……」
「あなたは吸血鬼なんかじゃありませんよねえ!?」
「吸血鬼ですよ。首のとこ血ついてる」
口をイの形にして牙を見せる。血を吸おうとすると自然に形を変える。麻酔効果があり、つけた傷は昔に比べるとずっと治りが早くなったそうだ。祖父が言っていた。
牙を見せられた興梠はさすがに黙ったが、いまなお悔しげに唇を噛んだ。
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