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ベッドの上を散々に引きずり回され、シーツと一緒にもみくちゃになって押し倒される。俺を見下ろす真っ赤な瞳の見境のなさに、ついに堪忍袋の緒が切れた。のしかかってくる興梠の後頭部を掴んで引き寄せ、首筋に噛みついた。牙が肌の内側に入った感触とともに、生暖かい液体が口中に広がる。
「あうっ」
彼女が顎をそらす。そのままひっくり返し、覆いかぶさってさらに深く吸い上げた。
「んっんっ……ふっ……うぅ」
俺が喉を鳴らすたびに興梠も呻く。空中をもがいていた腕が、背中をシャツごと強く握りしめる。
「やだ……いや……」
するりと背中から腕が落ちていく。完全に動かなくなった興梠から身を起こし、口元についた血を手の甲で拭う。
「不味い」
いつぞや試飲で飲まされた青汁とそっくりだ。苦くてザラザラする。無理矢理に傷つけられた穴から血を流し、気を失っている興梠の頬にひと筋の涙が伝った。指先で拭ってみると、まだ温かい。
さて、明日からどうしよう。面接の合否のお知らせ、入学式の準備、通常授業で発生する庶務のあれやこれや。興梠を避けて通る道などどこにもない。
言い訳を試みる道、素直に謝る道。いろいろなパターンを頭の中に巡らせながら、半ば心ここにあらずで俺はホテルを後にした。
《この後一杯どうです?・終》
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