2:入学式

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 遮光性に優れたカーテンに包まれる俺の部屋に朝は来ない。携帯で鳴らすアラームだけが頼りだ。徐々に大きくなる黒電話の音で俺は目を覚まし、上体を起こし、立ち上がる。顔を洗い、前髪や額から水を滴らせるしぶとく寝ぼけくさった自分が鏡のむこうからじっとこちらを見ている。生気のない半目だ。まるで死者だ。  食パンが焼けるのを待つ間に着替えを済ませ、ソファに座ってぼんやりと朝の情報番組を眺める。大体見られるコーナーは決まっていて、俺の場合はまず今日の天気と、それから芸能人の結婚や離婚のニュース、人気俳優の新作PR、映画ランキングを20分ほど見せられたら、星座占いだ。そのあとの5分間クッキングの途中で家を出る。 「今日のワーストは蠍座のあなた」  ナレーションの出すわざとらしいくらいの悲哀がこもった言い方は、むしろ嫌味に聞こえる。 「気持ちがすれ違う日。人から顰蹙を買わないように気をつけて! ラッキーアイテムは蜘蛛の巣でーす!」 「冗談きついぞ」  さっそく昨晩の興梠との攻防を思い出す。あれから無事に帰れたんだろうか。冷静になってみると、俺も昨日は変だった。やはり満月に狂わされたんだ。奴らの持っているパワーは尋常ではない。 「それでは続いて5分間クッキングのコーナーです。先生、今日はなにを作ってくれるんですか?」
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