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「今日は農家でとれた新鮮トマトを使った料理を作ります」
「トマトですか。トマトはサラダだけでなく、ピザやパスタやジュースにカクテル。いろいろな使い道がありますものね!」
「僕もねえ、大好きなんですよ」
司会の男がトマトに対して鼻の下を伸ばしたところで、テレビを消した。にやけ面の残像ひとつ残さず画面は真っ暗になる。少し早いが、家を出ることにする。
「おはようございます」
エントランスでテルオさんが声をかけてきた。ゴミ出しを終えたところらしい。俺も立ち止まって頭を下げた。「おはようございます」
「今日もいい天気ですね」
赤いトレーナーを着るテルオさんは少し大柄で目立つ。朝日を背に、目尻を下げて朗らかにたたずむ姿はまさに後光を背負った仏。しかし、管理人曰く家賃を滞納しまくっているらしい。人は見かけによらない。
こんな話を興梠ともした。すべてが昨日の出来事に帰結しているようで気味が悪い。というかうんざりする。
「ですね」テルオさんの言葉を受けて、俺も朝日を見上げた。「まさにサンシャインって感じです」
マンションの名前はサンシャインという。日光を嫌う吸血鬼の分際で俺は自らここを選んだのだ。入居してから気づいた。家賃の安さと立地に惹かれてサンシャインに飛び込む時点で、吸血鬼としてほぼほぼ終わっている。
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