2:入学式

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「あ! そうか! 日光だからサンシャインね!」  テルオさんは大笑いした。めちゃくちゃにウケた。正直そこまでの激烈な反応を欲していなかった俺は、「ええ」と、振ったくせに薄い笑いしか浮かべられなかった。「そうです、サンシャインだから」  セルフボケ殺しとはこのことだろうか。  俺の反応を見たテルオさんはすっと黙った。うん、とひとりで頷く。 「じゃあ、佐藤さん。行ってらっしゃい」 「ありがとうございます。行ってきます」  大きな背中を丸め、テルオさんがゆっくりとマンションの中に入っていくのを見守った。彼はよく朝っぱらから管理人室を訪ねているようだから、これから行くのかもしれない。管理人さんもよくテルオさんのことを話題に出す。テルオという名前も管理人さんの話から知ったのだ。なので、不思議なことに俺はテルオさんの名字は知らない。  電車でひと駅。徒歩7分で貸しビルに到着し、エレベーターで4階まで上がる。4階のフロアを教室と職員室として借りている。下2階分は印刷会社が借りており、上は英会話教室。6、7階は空きとなっていると聞いた。そこまで上がったことがないからわからないが。  職員室の鍵を開け、ブラインドを上げる代わりに電気をつけ、仕事の準備をする。授業が始まるまでにまだ一時間ほどある。講師が来るのはいつもギリギリだった。
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