2:入学式

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「ああ、ひと晩で治らなかったんだ。ちょっと深いな。痛いか?」  指先で触れると、あっという間に隠されてしまった。「触らないで」と怒った顔を作る。「今日からあなたのことレイパー佐藤って呼びます」 「よしてくれ」俺は半ば真剣に困った。「そんな売れないマジシャンみたいな名前は嫌だ。いままで通り佐藤さんと呼んでくれ」 「嫌です」 「おかしいだろ。帰ろうとした俺に後ろから襲いかかってきたのはお前だ。レイパー発祥の地のくせして被害者面はよせよ」 「酷い! れっきとした被害者です!」 「同時に加害者だと言ってるんだ。正当防衛を主張する」 「私は未遂だけど佐藤さんは完遂しましたよね」 「ああ言えばこう言う!」  激昂し、俺は立ち上がる。興梠は一歩も引かず、正面切って睨み合った。 「なんでだよ! なんでそんなこと言うんだ! もういいよ、わかったよ。そこまで怒るなら俺にも同じことしていいよ!」 「は?」興梠の顔が歪む。「佐藤さん?」 「今夜もう一度ホテル行こう! 俺を散々陵辱したらいいじゃないか! 腕と言わず足と言わず、陰茎でも陰嚢でも持ってけよ!」  早朝の職員室に、静寂が降りた。興梠は無言で、すうっと腹の前で指を組んだ。上目遣いに荒い息をつく相手を見上げる。
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