2:入学式

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 腕組みをして難しい顔を作る。広げた足の右側を大きく痙攣させた。 「どういうことです?」 「絶対違うわよね」  勢い込んで簿記講師の花村が割り込んできた。60代のザ・オバサンという雰囲気を持ち、中身も見たままというわかりやすい人だ。「あ、見た?」花村の言葉にやや興奮気味に横田が振り返る。 「北畠さん怪我してたのよ」 「怪我?」 「首のところだろ? 俺も見たんだって!」 「首ですか。ひっかき傷みたいな?」 「なに言ってんの穴ぼこよ穴ぼこ!」  意味もなく強烈な肩パンチを食らい、俺はがくりと右半身を下げた。こんなにも嬉しくないボディタッチは生まれて初めてだ。 「悪い虫にでも刺されたんじゃねえかなあ?」 「怖いわねえ。新種? 新種? 横田先生は……ちょっと、てっぺん、気をつけないとね」 「守る術がねえな。カツラ買うか!」  どこまでも人の則を越えていける花村だけが爆笑した。また意味もなく俺の背中を打つ。 「痛い痛い」 「佐藤先生」  それまでの北畠物語には一切絡まずひたすらパソコンに向かっていた宮原が回転椅子を回した。パソコン技術支援を担当しており、おそらく事務職を目指す生徒たちにとって、一番の頼りになるはずの重要な講師だった。まだ27歳の若い切れ者で、少々気どり屋で愛想が悪い。くい、と眼鏡を中指で押し上げるのが癖だ。
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