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「なんでって……」
怠そうな視線が俺を見る。憎らしいほど可愛らしい。
「話を聞いてましたか? 首に穴ぼこだって。私の経験上吸血鬼の仕業です。北畠さんの身近にいる吸血鬼はあなたです」
「経験上。なるほど経験上ね」
「進化の過程でそういう吸血鬼がいても不思議じゃないですよね。大丈夫ですよ、誰にも言いませんから」
「俺はノンケだ」
なぜこんな説明を真面目にしなければならないのだろう。とても悲しい。
たしかに吸血鬼は美女を好む習性がある。が、昨今は進化の過程で男や子どもの血じゃないと満足できない、変化球で花の蜜じゃないと……という少数派も聞いたことがあるにはある。
「吸血鬼とは限らないんじゃないか?」
「どういう意味です?」
「要は穴って歯型だろ? 絡新婦だって食べるときに噛めば穴くらい空くだろう」
興梠はつん、と髪を揺らしてそっぽを向いた。
「私たちはイケメンが好きです」
「もの好きがいるのかも。例えば就職に困っていたところを事務に拾い上げてくれた恩人のオジサンにときめいちゃった若い絡新婦が」
「私じゃありません!」
「俺だって違うわ!」
我々は怒りながら解散した。
☆☆☆
サンシャインのエレベーターは古くなっているのか、ときどき途中であらぬ階まで上ったり下りたり不具合が多い。ゆえに俺は階段を使うことにしていた。
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