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4階まで行く途中でちらりと3階を見ると、人が立っていた。彼の立ち方には違和感があった。おそらく自分の部屋があるのであろうドアから少し離れて、廊下のど真ん中で明滅する蛍光灯を見上げていた。
「どうしたんですか」
近づいていくと、男性は「ああ」と言って人なつっこい笑顔を見せた。年の頃は俺とそう変わりなく見える。中肉中背で、動きもしゃきしゃきとしていた。明るくて爽やかであることが全身から伝わってくる。
「電気がね」
彼は再び天井を見上げた。
「電気?」
俺もつられて見上げる。蜘蛛の巣がびっしり張った長方形の古い蛍光灯が、ついたり消えたりを繰り返し、
「あ」
「死んだ」
ついに永遠の眠りについた。
「この間取り替えてもらったばかりなんですよ」
興奮気味に言う。電球が不良品だったのか、それとも他に原因があるのか、特に大騒ぎすることでもないと感じている俺は、そうなんですかと軽く相槌を打った。彼が「おかしいと思いませんか」と続けたときには、心底驚いた。
「いや、特になにも」
「このマンション絶対おかしいですよ。いやね、僕猫飼ってるんですけど!」
「ここペット禁止ですよ」
途端に男は泣き笑いのような顔になって、無言で迫ってきた。手を掴みたそうに差し出してくる。
「ちょっと……大目に……すいませんけど……管理人さんも知ってるんで……」
「はあ」
緩いマンションだ。
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