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☆☆☆
いつもより1時間早く家を出て、職員室を開ける。間もなく興梠も出勤して、二人で教室内のチェックを済ませた。配り忘れたプリントはないか。人数分の椅子はあるか。
これから面接で合格した者たちの入学式が行われる。心持ちカジュアルさを抑えた装いの興梠が俺の胸に花のついたバッチをつけた。
「ありがとう」
そのとき、誰もいない職員室に挨拶をする声が聞こえてきた。優しそうなお年寄りの声に二人顔を見合わせる。
マイスター教育センター学長の登場だ。入校式では必ず挨拶をして貰うことになっている。が、
「早い」
その場を興梠に任せて職員室へ引き返す。柔らかそうな白髪の小さな老人が、ドアの前に立っているのを見つけて駆け寄った。
「今日はよろしくお願いします」
御歳いくつなのか知らないが、学長は聖なる微笑みで俺を労う言葉をかけてくれた。少しだけ祖父に似ている。好きだ。懐きたくなった。
「佐藤くんは初めての入校式ですか?」
「はい」
「そうかそうか。頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
そこで話を続けようとするのをなんとか職員室のソファまで誘導する。絶好のタイミングで興梠がお茶を運んできた。
しばらく三人で世間話をしていると、廊下にぽつぽつ気配が出始めた。入校予定の生徒が来た。
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