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「馬鹿にするんじゃない。大事なところだ。世の中に十字架モチーフの服や小物は無限にあるが、中でもああいうタイプのTシャツは2006年くらいに流行ったやつだろ? そんなの着てるって信じられない!」
「2006年とかわかりませんけど。そうなんですね~」
「とにかくあいつは不合格だ」
力任せにブラインドを強く引くと、瞬く間に室内が暗くなった。わずかな隙間から差す光が短冊になって床に散らばった。しばし興梠と見つめあう。
「下ろすと暗いな」
「ですね」
壁のスイッチを押し、興梠は伸びをしながら椅子に尻を落とした。
「でもやっと終わりましたね。佐藤さん、お疲れ様でした」
海藻男のような連中は職業安定所からの紹介を経て面接にやって来るが、厳密に言うと俺たちは安定所の人間ではない。県から委託された失業者に資格取得支援やスキルを教える訓練機関である。俺が所属しているのはマイスター教育センター事務科といい、安定所からほど近いビルを借り、各分野から講師を招いて授業を行っている。
訓練校、というだけあって、教室があり、職員室があり、俺たちは先生と呼ばれる。生徒は日直も担当する。顔ぶれが少しばかり老けているだけで皆が十代の頃に経験したであろう学校生活とさほど変わらない。
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