3:開校

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 俺たちは駅の改札で別れた。長々と話し込んでいたせいで行きかう人はまばらで、柱の陰で立ち話をしていても邪魔にされることはなかった。 「お疲れさん」 「お疲れ様でした」  短い挨拶をかわし、踵を返す俺を「佐藤さん」と興梠が呼んだ。 「ん?」  両手でバッグを持ち、まっすぐに立つ姿勢から興梠は一歩進んだ。上着のポケットに入れた左手の、肘のあたりを引っ張る。 「怪我は大丈夫ですか」  気づいていたか、床に倒れた際、北畠の触手が腕をかすっていった感触がした。微々たるもので気にするほどの痛みはない。 「うん」鋭い洞察力への感嘆から返事が遅れる。「大丈夫だよ」 「申し訳ありませんでした」  興梠はゆっくりと頭を下げた。 「なんで。謝ることなんかないだろ。真面目か」 「はい。私、真面目です」 「知ってる」 「あの、ほんとにごめんなさい。怖いです。見たこともない妖怪でした。もし変な細胞が入り込んだら大変。そこで……私にいい考えがあるんですが」  悔恨の暗い色を宿した瞳が、ほのかに光る。おや、と俺の気持ちも動く。 「いい考え?」 「はい。その部分食べてあげます。花でも病気になったら切り落とすじゃないですか」  早くも爛々と赤く目玉を輝かせ、口から糸を引いている。簡単に心を動かした自分を嘲笑った。興梠は可愛い部下であり、生粋の妖怪でもある。 「生は私も危険なのでちょっと焼いて……いいアイディアでしょ?」 「やかましいわもっぺん血吸うたんぞ。おやすみだ。解散」 「はあい……」 《開校・終》
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