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「北畠さん大丈夫かな」
生徒は3ヶ月で卒業していくので、面接、入学、卒業のスパンは短い。前期の卒業生を見送ったのを最後に、これまで何年も同校事務科の訓練を受け持ってきた北畠さんが急病で倒れた。だから俺が来た。人生初の面接という緊張と意気込みをまさか2006年くらいのTシャツに砕かれるとは思わなかったが。
俺の呟きに興梠はさあ、と鼻から抜けるような声を出した。帰り支度をしながら彼女のデスクのほうを振り返る。今日は面接だから授業も休みだ。生徒がいないとすることがない。
「結構辛らつだな。きみは北畠さんに見初められてここの事務に推薦されたんじゃなかったのか」
「北畠さんは私を見初めてくれたかもしれないですけど、私はあのオジサンを見初めていませんよ?」
「あれ? あれあれ、言うねえこの人。怖いな。早く帰ろう」
デスクから立ち上がった興梠もすっかり帰り支度ができていた。薄茶色のカーディガンに、毛糸でできたピンクのショルダーを斜めに下げている。そうしていると、事務員というより子どものお使いのようだ。
「ご飯とか奢ってくれたら、見初めちゃうかもです」
健康的な丸みのある頬を上げてにっこり笑う。なるほど、そういうことか。
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