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翌朝、赤く腫れあがった腕を見て驚愕した。痛みも昨日より増している。太いミミズが入り込んだように内側が盛り上がり、赤黒く変色した皮膚は不気味で朝飯が不味くなった。ひとまず湿布を貼って上から網製のサポーターで固定する。そうしている間、変な細胞が入り込んだら大変という興梠の言葉がよぎらなかったと言ったら嘘になる。冗談抜きに焼いて食べさせるか?
朝は明るく生きていきたい。景気づけにテレビをつけた。いまの時間は5分間クッキングのコーナーのはずだ。
「それでは続いて5分間クッキングのコーナーです。先生、今日はなにを作ってくれるんですか?」
「今日は、この立派なボンレスハムを贅沢に焼いていきます!」
中年の女性調理師が自信満々に、網が張られた赤いハムを両腕に赤子を抱くようにかかげた。おお、とスタジオから歓声が上がる。
「僕はねえ、すべての食べ物の中でハムが一番好きなんですよ! ね、あの、赤黒く焼けてる感じが──」
よだれを垂らさんばかりに身を乗り出していた司会者の男がふっつりと闇に消える。テーブルにリモコンを置いて、俺は腰を上げた。
エントランスに降りると、数人が固まっていた。なにやら深刻な表情で話し合っている。4人のうち3人には見覚えがあった。ひとりはマンションに入ったときに挨拶をした管理人の天王寺さん。40代くらいの眼鏡をかけた色白で気弱そうな男だ。
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