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「……ふうん。じゃあ興梠さん。このあと一杯どうです?」
「いいですね、喜んで」
即答だった。人懐こくていい娘なのだろう。頬を赤く弾ませる彼女を眺めて、俺は人知れず鼻を鳴らした。アホめ。
「行こうか」
「はい」
電気を消し、職員室の鍵を閉め、小さなエレベーターに収まって一階まで下がる。その間ぼんやりとする俺と対照に、興梠はスマホで一生懸命調べものを始めた。
「眉間にしわができてるぞ」
「佐藤さんお魚好きですか?」
「好き。なんでも好き。生も調理済みも」
可愛い女も好きだ。
「なに、もしかして調べてくれてたの? わざわざ?」
「ええ……」真剣すぎて顔も上げない。「こういうの調べるの好きなんですよ……せっかくだから美味しいところ開拓したいですよね。あ、佐藤さんはなにもしないでください私が調べますから」
「助かります」
現世に生まれて30余年。それなりにそれなりのことを経験して分別も良識もある俺なので、同僚を食うなどという見境のない真似だけはすまいと思っていたが、気まぐれに興梠を食うことに決めた。同僚はあとが面倒なのだ。いままでは、名前も知らない女がターゲットだった。久しぶりだし、別にいいだろう。
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