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「ご飯いいですね……木耳は出ますかね……」
「木耳? 木耳はうーんちょっと、わからないけど」
「木耳が好きなんですよ。木耳があれば、行きたいな……」
「じゃ塚本さんはオッケーだね」
きょろり、と興梠の瞳が上へ動いた。「先生は来てくれるんですよね?」
「可愛い人間の女の子来る?」
口だけで「やっだ……」と言い、表向きは「もちろんです」と興梠は答えた。それを聞いた俺はすぐ乗り気になる。
「いつ?」
「今週の土曜の夜です。学校もないし、よろしいかと思います」
「楽しみですね、木耳」
「俺は木耳楽しみじゃないけど土曜日の夜────」
言いかけて、俺は額を抑えた。
「駄目だ。行けない」
「えー、どうして?」
興梠が口を尖らせる。どうしてもこうしても先約があったのだった。すっかり忘れていた。
「ごめん。他を探してくれないかな」
「他って言ったって……」
授業開始のチャイムが鳴った。ぎりぎり登校の生徒たちがイワシの群れになって速足で過ぎ去っていく。背後を振り返り、流れゆく者どもを見て興梠はため息をついた。
《退化する者たち・終》
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