5:サタデーナイトファイティング

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 すれ違った男性と肩がぶつかった。すみません、と振り返るのも億劫な人込みで首を捻じ曲げると、むこうも赤ら顔で片手を上げた。俺よりも年下の、大学生風の若い男だった。みんないい気分。今日が仕事だった人も明日はきっと休みだ。今日と明日が仕事でも平日が休みの人もいる。夜は毎日どこかしらで飲み会だ。  夜景に高々とそびえ立つビルに入る。6つもあるエレベーターの前では結構な人数が箱を待っていた。もうそろそろ冬の装いを始めたカップルが多い。夜景を見ながら飯を食い、あとはお互いを貪る。どこも痛めつけないで快楽を得る。人間は実に健全な生き物だ。  俺は特定の女性を作ったことはないが、人間の男女が一途に楽しそうにしている姿を見るのが、嫌いではない。  カップルと俺を乗せたエレベーターは滑らかに壁に沿って上昇する。空があっという間に近くなった。今夜は月がない。興梠が狩りをするのには、満月の力があったほうがいいだろうに。  最上階に着いた。開のボタンを指で押さえてカップルが吐き出されるのを壁に寄りかかって待つ。全員が出たのを見計らっていざ自分も出ようとすると、乗り込もうとした人間とぶつかりそうになった。 「ああ」 「うわ」  慌てて相手がよける。俺を見てへこりと頭を下げた。ひょろ長い体にTシャツ一枚、よれよれのジーンズに冬が呆れる裸足にサンダル。
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