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「ごめんなさい。なんでもないの」
わたしはミラさんにそう言って笑う。
「さようですか?」
「ええ」
頷きながらも、なんだか名残惜しい気持ちでいつまでも硬い金属の感触を指先で撫でた。
リルが着けてくれたもの。
人でも獣人でも男性が女性に送る装飾品は特別な意味を持つ。
リルがそのことを意識して着けてくれたものか、ただの再会とさよならの記念に形に残るものを送ったつもりなのか、それはわからない。
わからないけれど、今はただ素直に嬉しい。
国に戻れば他の誰かに嫁ぐ身だ。
当然ずっと着けることなんて出来ない。
だけど国に戻るまで。それまでの間なら、きっと許されるはず。
金に釣り鐘型の花が彫られた耳環は花びらの部分に淡いピンクのサファイアが埋め込まれていて、指先に触れると少しゴツゴツとした凹凸がある。
花はわたしが好きな、小さなわたしたちの思い出のカランコエ。
『たくさんの小さな思い出』
その花言葉はわたしたちの再会とさよならの記念にとても相応しいと思う。
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