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ーーカランコエの花言葉。
わたしは建物の内側へ足を進めながら考える。
いつもより短い間隔で訪れた職業紹介所の中は、いつもよりも大勢の人で溢れていた。
『幸福を告げる』
『たくさんのちいさな思い出』
カウンターに並ぶ人々の表現に何か険しい、鬼気迫るような緊張感のようなものを感じるのは気のせいだろうか。
ーーそれと、
とくん。
小さく跳ねる。
鼓動がほんの小さく。
ーーもう一つ。
「こんなに多いんじゃもう仕事はあきらめるしかないんじゃないか?」
「ああ、これじゃあな」
「クソっ!商隊に紛れるのが一番安全だってのに」
わたしの後ろから紹介所の扉をくぐった男の人たちが口々に吐き捨てる言葉に、わたしの思考は断ち切られる。
辺りを見回して、ふと、思った。
以前もこんな既視感を感じることがあったと。
ーーあの時だ。
街中で、モンタさんを見かけた時。
モンタさんを路地の奥に連れ込んだ二人の男の人。その瞳を見た時。
わたしはこの空気を知ってる。
そう、思ったのだ。
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