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「好きって言わないでって、あなたは言うけどもさ」
生理的に滲んだ涙もそこそこに唇を震わせていた僕に、彼女はそう静かに言う。
「好きな人に好きって伝えて、何がいけないの」
それが本心じゃないからでしょ?と言おうとして、また胃が震え始めた。止める間もなく口からこぼれ落ちた白い花は、彼女の膝の上にボロボロと降り注がれた。強烈な花の香りに、気持ちが悪くなる。それ以前から気分は悪かったけども、彼女の言葉と今も摩ってくれる手のひらの感覚が、なおさら僕の身体を痛めつける。痛みとともに、苦しみを。君から与えられる感情が、いつしか苦痛へとかたちをかえた。愛しかった君から受ける言葉が、刃となって心を刺した。
「…あなたが好きよ。スノードロップの花を吐くあなたが好き。」
ぎゅっと、彼女の細腕が背中に回る。
子供をあやす様にポンポンと撫でられる感覚に、どうしてか、目尻から涙が零れた。
君を好きになってしまった自分を呪う。同時に、君が僕を好きになってくれないから、自分を呪いながら君を呪う。そんなふうにしか君を愛せない僕が、殺したいほどに憎い。
「……僕を……して」
「ん?なぁに」
震える腕に力を込めて、彼女から離れる。掠れた声で呟きながら、僕はきっと彼女を睨みつけた。驚いた顔すらしない君は、あの僕の好きな猫目を、きゅっと眇めて彩やかに微笑む。そんな風に艶やかで美しい君を、本当に愛しく思う。
それでも、僕は。
「僕を、愛してよ」
君の柔い手のひらを拒み、その滑らかな肌に爪を立て、色鮮やかな鮮血を見れば、幾らかはこの病も治まるのかもしれないと。噛みつきたくなるほどに扇情的な細い首に噛み付いて、赤い花の痕を残したいと。けど、そんなふうに血迷いたくはない。君を傷つけなくはない。だから、お願いだ。
懇願するように腕を伸ばし、くっと顔を下げて堪えるように唇を噛んだ。
「当たり前でしょ」
あぁ、そうだ。君は、そうやって、僕の腕をとる。
そして、微笑むのだ。ひどく残酷に、美しく。そのあでやかさに、僕は結局何も言えなくなる。
僕はいつまでも、君の残り香に囚われている。
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