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「大丈夫、大丈夫よ」
そんな僕の耳に、彼女の柔らかな声が届く。ぽん、ぽん、と幼子をあやすように均一に背中を叩きながら、彼女はずっと僕のそばに居てくれた。そんな優しい彼女に対して、やめてくれ、と脳内の僕が悲鳴をあげている。どうせ、君にそんな気はないくせに。その優しい声もまやかしでしかないくせに。
僕の顔の下にはこんもりと白い花が積まれている。ひらひらと散ったその花を憎々しげに見つめながらも、僕はゆっくりと顔を上げた。夕焼けが差し込んだ部屋を背景に、猫目の彼女がこちらをじっと見つめていた。薄い唇が僅かに上がっている。柔く微笑んだ彼女の薄い黒色の瞳に、僕は唇を震わせた。
愛しげに見つめるその瞳が嘘で出来ていることを、僕は知っているんだ。
「ねぇ、こっちにおいで」
そんな僕を知ってか否か、動けないでいる僕に彼女はふわりと腕を広げた。僕はくっと奥歯を噛み締める。微笑んだ彼女は随分と余裕そうで、薄く微笑んだその表情はいつも通りひどく美しくて、嫌になった。余裕綽々な瞳が、まるで全てわかっているのだと弧を描くさまに苛立ちげに頬を震わせながらも、数秒の空白の後、躊躇うように腕を伸ばした。彼女が薄く微笑む。おいでというように包み込まれた腕に引っ張られ僕は彼女の胸にとんと額を置いた。
胃のあたりの気持ち悪さは、幾らか治っていた。それでも荒れた息を整えようと息をしていると、彼女は僕の首に手を置いて、そして僕の背中をまた摩り始めた。
「好きよ、大好きよ」
まるで呪いのように。そう繰り返す彼女に、僕は瞳を強く瞑る。この病の正体を、君はわかっているはずなのに。どうしてそんなに、残酷になれるんだ。この病は、強い願いから生まれるもの。決して叶わぬと絶望した身体が自然と病にかかる。僕のこれは、強い恋慕が原因だった。君を愛しいと思えば思うほど、僕の病は進行する。この恋が叶わぬ限り、僕は白い花を吐き続ける。僕に、好きだと笑う彼女の心が、本物ではないと示し続ける僕の病。いっそ、あんたのことなんて好きじゃない、とはっきり言葉で言われた方がどんなに楽だろうか。
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