恋とはちがう

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「あのー、お向かいのビルの社員さんですよね」  ぼんやりと手帳を眺めていた雅志に声をかけたのはチュウだった。  気を抜いていたので一瞬たじろいだが、なんとか平静を装った。 「あっ、そうです」 「そうですよね。この前、店の前の道を掃除していたら、あのビルに入っていくのが見えたので、そうかな、と思って」  雅志は、チュウの声が脳に染み込んでくるのを感じた。  どれだけ言葉の数が多くても、まったく嫌味にはならない声のトーンはゆっくり滲んで、拡がる。
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