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その瞬間、彼はお散歩準備そっちのけでベッドに上がると私の膝の上にポテリと顎を乗せて来た。
そしてそのまま私が掲げた手にぐいぐいと頭を寄せて来る。
「♪」
『こっちにきて』と私がやったから。ついでにベッドでやるのは『甘えてもいいですよー』という合図でもある。
ルーちゃんとの間には幾つかの行動言語を定めているので、最近はこうした事で意思の疎通を図る事が増えてきた。
竜種である彼にはこうした“行動”の方が言葉よりも早く正確に伝わるというのがその理由なのだが、基本的にスキンシップありきのコミュニケーションを用いた場合、言葉であれこれ議論するよりも私の意見が通り易いというのも理由として挙げられる。
いや、決してルーちゃんを手玉に取ってるとか
そんなんじゃありませんからね!?
「ん♪」
パッタパッタとご機嫌で、尻尾で枕を叩きながらナデナデされるルーちゃん。
切れ長の、鋭い印象の瞳を閉じて気持ち良さそうにしている姿は、普段から想像もつかないほど幼げで可愛いらしい。
やーん!
ナニコレ、マジで可愛んですけど!
尊いー……っ!
じぃんとしたのも束の間。
ーーはっ!?そうではなくて!
私はプルプルと首を振るとルーちゃんを撫でてあげながら
「えーと、ルーちゃん。私、ちょっとお部屋から出たくてですね?」
「ん?ああ、だから散歩だろ?なら俺も行くって」
「あ、いえ!散歩と言うか……そのー、ちょっと客間に用事がありまして」
「あ?客間に?」
その言葉で彼は俄然、不可解そうに眉を顰めた。
ご機嫌だった尻尾が、パタンとその場で枕の上に落ちる。
こ、これは……
じーっと強い視線を感じた。
明らかに怪しんでいる。
「客間なんかに、何しに行くんだ?」
「え!?えーと、その、何というか……その、ほら!昨日からフェリシエルさんがお泊まりに来てるじゃないですか!だから、その……ゆっくり眠れたかなー?って!か、確認を?」
「……こんな朝っぱらに?小娘、まだ寝てんじゃねえのか?迷惑だろ。やめとけ」
ぐ……せ、正論!?
「朝メシの時にでも聞きゃいいだけだろうが」
「い、いえ!フェリシエルさん、早起きですから!そ、それに今日は朝から一緒にやる事があっ……ーーって、ぁあっ!?」
し、しまった!?
つい本当の事を、うっかり口に……!
「……ほぉう?やる事、ねぇ?」
「……っ」
盛大に怪しむルーちゃん。
冷や汗をかく私。
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