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Day story 63-②「クレマチスの戦姫Ⅱ」
【Scene:2「今だけの子供扱い」】
思わぬ旧友の乱入に面食らい、正論で喧嘩を止められ気まずそうにする祖父母。
見知らぬ人物に愛する妹が警戒心もなく、飛び付いた事に小さな頭を悩ませる兄。
可愛い幼子の無邪気な様子に頬を緩めるハーフエルフの若者。
ベネトロッサ分邸のサロンでは、それぞれがそれぞれの反応をしており、正しく三者三様と言えた。
一方でバーレンクラハに抱っこされご満悦のソルシアナだけは物珍しそうにバーレンクラハの中途半端に長い耳に手を伸ばし、みょんみょんと上下に揺らして遊んでいる。
「ソーちゃん、ちょっとくすぐったいんだけど」
「おみみ、みょーん!」
「あー、そっかそっか。珍しいもんなぁ。うん、触ってもいいけど、力一杯は引っ張らないでね。おじさんも痛いから」
「う!」
コクコクと元気に頷く幼子にバーレンクラハは穏やかに微笑しつつ、未だ半ば固まった様な姿の老夫婦と内心ハラハラしているであろう幼子の兄を交互に見遣り
「あ、そういや皆さん何の話してたんです?なんか昔話ぽかったですけど」
「ええと…お祖父様とお祖母様の昔話を少々」
答えたのはエルフェンティスだ。するとバーレンクラハは何となく察した様子で
「て事は…あー、あの時の話ですかね?で、どこまで話してたんです?」
「ええと…」
彼の言葉に幾分冷静さを取り戻したエルフェンティスが言い淀む。するとバーレンクラハに抱き抱えられたソルシアナが先に答えた。
「アーレ、おばーちゃま、きしたまとたたかったの!」
「騎士?じゃあやっぱり御前試合の時の話かー」
「おばーちゃまね、つおいの!」
「でしょうねぇ、この人の強さは昔から頭可笑しかったから」
バーレンクラハがそう言うと、やっと話の続きが聞けると思ったのかエルフェンティスがやや身を乗り出した。
「バーレンクラハ卿は、御前試合の事をご存知なんですか?!」
その姿にバーレンクラハは面白そうに目を細める。内心で、ベネトロッサとはいえやはり子供は子供。英雄譚には興味があるのだろうと。
「ええ、勿論知ってますよ。なんせ当時の試合は即日、箝口令が布かれたくらいですから」
「箝口令、ですか?」
それは本当なのかとエルフェンティスは目を瞬かせる。が、ややもして納得した。
「…確かに。私は試合の結果を知りませんでした。サー・バダンデール程の英雄が相手とあれば普通はもっと噂になっても良いですよね」
「お、流石。そこまで思案が回るとは、やっぱりベネトロッサだな。賢いなー、孫っ子ちゃんは」
「エルフェンティスです」
「ん、宜しくなー、エル坊」
バーレンクラハは頭の回る子供の小さな頭を片手でワシワシと撫でる。
それは正しく子供に対するそれで、初対面の相手に気安くされた事のないエルフェンティスはやや憮然とした表情で眉間に皺を寄せ抗議の意を露わにした。
「お止め頂きたい、バーレンクラハ卿。若輩とは言え、私はこれでもベネトロッサの次期当主です!」
無遠慮な手から逃れ、仰け反るように距離を取るとバーレンクラハは悪びれもなく笑った。
「ああ、そうでしたっけ。けどまあ、それ言ったら俺も割と歳食ってるんでね。なんせ、エル坊のおばあ様とほぼ同い年だ」
「え?」
バーレンクラハがそう言うと、エルフェンティスはパチパチと目を瞬かせた。
ハーフエルフは人とは違う時間の流れで生きているという事は知識として知ってはいたが、まさかそこまでの年代的な開きがあるとは思いもしなかった為である。
驚くエルフェンティスに彼はいたずらっぽく笑い
「て事なんで。諦めて知人のじーさんには素直に可愛がられるうちに、存分に可愛がって貰いな」
「バ、バーレンクラハ卿!」
「可愛がって貰えるうちが華、ってね?図体がデカくなりゃそのうち誰からも可愛がって貰えなくなる。特に、男の子は」
「…別に、私は可愛がって欲しい訳では!」
「子供のうちはそうでしょうとも。けどね、いつか絶対寂しく思う時が来ますって。その時に、『ああ、もっと可愛がられたかったなー』なんて思っても遅いんですよ」
「いえ、ですから!」
「今だけ、今だけ」
バーレンクラハはそう言って、またワシワシとエルフェンティスの頭を撫でる。
エルフェンティスとしては非常に不服ではあったが、それでも何故だか少し心の奥がムズムズとするような温かな居心地の悪さを感じていた。
少しブスッとしながらも甘んじてその暴挙を受け入れ腕組みをしていると、バーレンクラハは可笑しそうに吹き出し
「どうです、心地いいもんでしょ?子供扱い」
「いいえ!……不快です」
「はは!素直じゃないなー、エル坊は。ソーちゃんなんて、こんなに嬉しそうなのに。ねー、ソーちゃん?」
バーレンクラハがエルフェンティスから腕の中のソルシアナに視線を移し、うりうりと額を合わせてあやすと、不機嫌そうな兄とは対照的に彼の妹はキャッキャとご機嫌で声を弾ませた。
「ソルシアナ、はしたないぞ」
注意はしてみたものの、妹は一瞬きょとんとしたものの、また嬉しそうにはしゃぎ眩しい笑顔を見せるのだった。
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