Day story 63-③「クレマチスの戦姫Ⅱ」

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Day story 63-③「クレマチスの戦姫Ⅱ」

【Scene:3「過去の勝敗」】 「それで…」 一頻りバーレンクラハに撫で回され疲労困憊したエルフェンティスは、ややゲッソリとしながらも気になっていた話題に立ち戻る。 「結局、お祖母様とサー・バダンデールの勝負は一体どうなったのですか」 それが聞きたくて我慢を重ねていたのだが、流石にもう限界だった。 「ああ、そういやその話、途中でしたね」 ぶすくれるエルフェンティスを見て、バーレンクラハは苦笑気味に肩を竦めると、チラリとベネトロッサの老夫婦に視線を移した。 「て事なんですが、続き話してもいいですか?」 尋ねると祖母は孫息子同様に憮然とした子供っぽい表情で顔を顰め 「なんで儂に聞くんじゃ」 不服そうに唇を尖らせた。 それを見てバーレンクラハはくすくすと可笑しそうに声を漏らす。 「だって大奥様の武勇伝じゃないですか」 「むぅ…その大奥様っちゅうのはやめい。お主は儂の家臣でも何でもないじゃろうが」 「嫌ですねぇ、俺なりにベネトロッサの前当主夫人に敬意を表してるだけなのに」 「やかましいわい!」 「はは!……えーとじゃあ、お許しが出た所で結論からお話ししましょうか」 バーレンクラハは一頻り笑うと、続きをせがむエルフェンティスへと向き直った。 「勝敗の行方ですが…あの時は、大奥様が勝ちました」 「わぁ…あの英雄相手に!?流石はお祖母様です!」 望んでいた結論にエルフェンティスは目を輝かせる。 一体どうやって勝ったのだろう。 ここは是非ともその武勇伝を聞きたいものだ。期待を込めて祖母を振り返ると、意外な事に彼の祖母は自慢するでもなく、どこか不満げに呟いた。 「人の話を奪っておいて肝心要な所を本人の口で語らせるとは…性根が悪いぞ、バーレ」 「そうですか?」 「エルよ、期待に添えず悪いが…儂はバダンデール卿には勝てなんだ」 「え!お、お祖母様が負けたのですか!?で、ですがバーレンクラハ卿は確かにお祖母様が勝ったと…!」 「ううむ、まあ…それは間違ってはおらん。確かに儂はバダンデール卿に勝った。じゃが、負けたんじゃ。あれは、そうじゃのう…勝ちを譲られた、と言うべきか」 「勝ちを譲る?どういう事なのですか」 予想外の言葉にエルフェンティスは驚きを隠せぬ様子で身を乗り出した。 詰め寄るように声をあげると、祖母はどこかバツが悪そうに視線をそっぽに向けた。 その姿が祖母とバーレンクラハが語る内容が真実だと告げていた。 「そんな…信じられない…」 エルフェンティスは呆然と目を見開いた。 いくら剣技に重きを置く御前試合とはいえ、従霊の使用を許可されたベネトロッサの魔術師がただの騎士に負ける筈がない。 それが幾ら歴戦の英雄騎士であったとしても。少なくともエルフェンティスはそう考えていた。それに勝ちを譲る、という言葉も気になった。 騎士は名誉を何よりも重んじる。 まして御前試合となれば命より名誉が優先される筈。 ……けれど、もし そこでエルフェンティスはふと考え込んだ。 騎士が己の名誉より重んじるものがあるとしたら、それは何だろうか。 お祖母様はこの御前試合の褒賞として 公国で初の女性騎士に叙任された…そしてそれは公太子殿下の肝入りで行われた云わばプロパガンダの様なもの… で、あるならば、もしかして…… 憶測ではあるものの、ある結論を導き出したエルフェンティスは祖母に尋ねる事にした。 「何故、その…負けたのですか?無論、サー・バダンデールを侮る訳ではありませんが、それでもツェツィーレアがいてベネトロッサが負ける事など。それに勝ちを譲るとは……まかさとは思いますが」 「うーん、それなんじゃがのぅ」 困惑している孫息子の言葉に、祖母はややムスッとした表情のままガシガシと乱雑に白い頭を掻きながら顰めっ面をし 「暇がなかった」 「……はい?」 ぼそりと呟かれた言葉にエルフェンティスは目を瞬かせた。 「ツェツィーレアの従霊装具を使いはしたんじゃがの、元々のポテンシャルが違い過ぎた。打てども打てども完璧に防がれての」 「それは、バダンデール卿が防戦一方になったと言うことでは?」 「いんや、あれは防戦なんぞというもんじゃなかろうよ、単にいなされただけじゃ。で、その後、今度はこちらに打ち込まれたんじゃが」 「打ち返す暇がなかった、と?」 「うむ。返す所か、こちらの従霊装具を一太刀で砕かれてのぅ」 「はい!?」 「完全に儂の実力不足じゃ」 前日までに従霊装具を多用し過ぎた。 まあ、多用と言うほど使ってはいなかったとは思うが、当時は従霊装具の秘術を編み出して日も浅く、どこまで使えるか把握していなかったのが敗因だ。 それにあの騎士を実力を内心侮っていたのかも知れない。戦場で百戦錬磨の騎士から与えられるプレッシャーに試合中、かなり苦しめられたのも事実だ。 初戦でケルンにですら翻弄されたのだ、彼より強い相手にしてみれば己の方がヒヨコだったに違いない。 「でも、勝ったのはお祖母様なんですよね?」 「……試合では、の」 エルフェンティスが小さく零すと、祖母は長い溜息を付きながら残念そうに頷いた。
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