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「で!実はご相談というのは、他でも無く!そんな完璧令嬢のフェリシエルさんに、是非、ご教授頂きたい事がございまして!」
身を乗り出すと彼女は得意気な表情から一転。細く整った眉を顰ませて
「お断り致します」
「なんで!?」
ズバリ即答。
「私、まだ何も言ってないのに!?」
「言わずとも話の流れで大凡の見当はつきます」
すると彼女はふぅと小さな溜息をつき
「どうせお料理を教えて欲しいとか、そう言った類のお話しなのではなくて?」
「惜しい!似てるけど違います!お菓子作りを教えて欲しいんです!」
「そう。やっぱり、お断り致します」
「え!?な、なんで!?どうしてですか!?」
察しのいい彼女はあっさりとそう言うと優雅に紅茶の入ったティーカップを傾けながら
「貴女……私の職務がどういったものかご存知?左遷島流し部署にいる貴女と違って、外交部は激務ですの。ただでさえ忙しいこの時期に……私、暇では御座いませんの」
「そ、そんな……!と、友達じゃないですか!」
「(仮)が抜けておりましてよ?」
「フェリシエルさぁん……!」
「嫌です」
「お願いします!フェリシエルさん以外にこんな事頼める人、他にいないんです!!」
余りに素っ気ない反応に涙目になると、彼女は一瞬苦い顔をし、それから長い長い溜息をついた。
「……はぁー……全く、面倒な事」
「うぅぅ……」
「参考までにお伺い致しますけれど、貴女、お菓子作りの経験は?」
「侍女たちとクッキーを作った事はあります」
「仕切りは貴女?」
「いえ、メアリーです……私は……混ぜたり、型を抜いたりした位で……」
「なら無理ですわね。お菓子作りと一言で言っても繊細な作業ですもの。技術も必要です。一朝一夕で身に付くものではなくてよ?」
「それは……分かっていますが……」
それでも諦め悪くモゴモゴする。
だって、私にはどうしても早急にお菓子を作る必要があったからだ。
数日後に迫った年に一度の祭典「聖愛祭」。
別名「恋人たちの日」とも呼ばれるその日は特別な日で、ラスガルド全土で乙女たちが愛する人にお菓子をプレゼントする日なのだ。
ルーちゃんが来て、初めての聖愛祭。
彼はお菓子が大好きなので、今年はどうしても彼にお菓子を渡したかった。既製品やパティシエが作るお菓子の方が美味しいし、喜ばれるのは分かっている。
でも……
私はどうしても、手作りしたかった。
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