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「やれやれ……その顔だと、あの従霊に渡すお菓子を自分で作りたい、と言う所なのでしょうけれど」
「……はい、その通りです」
世界中の女の子が意中の殿方に渡すものは、世界でたった一つしかない手作りのお菓子。というのは聖愛祭の基本で、日頃お世話になった上司や家族にはパティスリーで購入した聖愛祭用のチョコレートと言うのがセオリーとなっている。
ルーちゃんを良く知る人物ならば周知の事だが、彼はお菓子全般が好物の自他ともに認める超甘党ドラゴン。
マフィンは大好物だし、クッキー、ケーキ、マシュマロ、キャラメルも喜んで食べる。特に好きなのはチョコレートで、チョコチップ入りのマフィンやチョコ掛けクッキーなどはその辺に置いておくと匂いを嗅ぎつけていつの間にか完食している事もしばしばだ。
「折角の聖愛祭だし……私、どうしても……」
日頃の感謝と大好きな想いを込めて手作りチョコを贈りたいと思った。
けれど、さっきも言った様に私にはお菓子作りのスキルがない。
だからフェリシエルさんを頼ったのだけれど……
「やっぱり、迷惑ですよね」
しゅんとして視線を落とす。
当然だ。フェリシエルさんも恋する乙女。今年はネイトとも親しくなったみたいだし、例年以上に忙しいのかもしれない。
まして聖愛祭は恋人だけでなく、お世話になった上司や同僚にもお菓子を用意せねばならない。
私の様に他と関わりのない部署の人間ならいざ知らず、彼女の様に沢山の人と関わる部署に所属する魔術師で、かつ貴族のご令嬢ともなれば周りにあげるお菓子の準備だけで一苦労のはずだ。
「すみません……私、ワガママばっかりで……」
フェリシエルさんの迷惑を考えていなかった。
ぎゅっと唇を引き結ぶ。
すると
「はぁー……」
またしても溜息。
呆れられている。
居心地が悪くなって紅茶をちびちび飲んでいると、不意に彼女が苦笑した。
「ほんと、手のかかる人だこと」
「すみません」
「いえ、宜しくてよ。……時にソルシアナ嬢?貴女、聖愛祭当日のご予定は?」
「……サミュエル導師からはお休みを頂いています」
脳裏に浮かんだのはあの優しげなライトブラウンの瞳を有した上司。彼は
『初めての聖愛祭ですし、お休みにしてお二人で出掛けて来たらどうです?どうせする事もありませんし』
と、気を遣われた。
「成程。そう……当日はお休みですのね……」
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