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Day story 2-②『Primary Gift』
【Scene:2『乙女の憂鬱と不審者王子』】
星骸の塔ーー生活区。
塔に所属する魔術師たちが寮として活用する小塔区画で、彼女ーーフェリシエル・ド・ローザンヌは頭を抱えていた。
「……!」
落ち着きなく室内をウロウロとする彼女は普段の厳しくも気品溢れた貴族の令嬢スタイルではなく、眼鏡姿で比較的ラフなワンピースに身を包んだ休日の女の子そのものだった。
手にしているのは可愛らしいピンクの包み紙で丁寧にラッピングされたギフトボックス。
それを後生大事に抱えながら、彼女は先程からもうずっと、何度もそうやって部屋の中を行ったり来たりしていた。
「ああ、もう……!」
苛立ちと、羞恥と、そして一抹の寂しさを含んだそれは彼女が激しく困惑している事を示していた。
普段冷静な彼女からは想像もつかないくらい、年頃の女の子然とした声音。
「私ったら、どうして……!」
本当なら今頃、これをあの人に手渡すつもりだったのに。あの人ーー敬愛する、かの少年騎士に。
「でも……!」
出来なかった。
昼前に出仕して、直ぐにでも何かにかこつけて手渡すつもりだったのに、彼がいなかったから。
毎年、彼はこの日になると何処かへ姿を消してしまう。それも素早く迅速に。それこそ、それが任務か何かの様に。
時折見掛ける事はあっても多数の魔術師や令嬢たちに追い回されており、本気で逃げ回っている為、フェリシエル1人では捕まえきれない。かといって他の女性陣に混じってまで追い回すのは気が引けた。
逃げると言う事は、彼はこのイベントーー聖愛祭を嫌っているからに違いない。
実際、前日の彼は酷く憂鬱そうで、前倒しで贈り物を渡しに来る女性たちに一応笑顔で感謝を述べ受け取ってはいたものの、その後、自身のデスクに渦高く積み上がった贈り物の山を見て「去年より……多くなってないか?」と遠い目をして天を仰いでいた。
あれだけの数の贈り物を貰うと言う事は、当然お返しをする量もハンパない訳で……しかも、名門ベネトロッサの次男で自身も爵位を持つ男爵としては、質の悪い大量生産品をばら撒く訳にもいかないだろう。
必然的に、来月の出費は凄まじいものになる。
それでは憂鬱にもなろうというもの。
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