Day story 34-⑤「寄り道」

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Day story 34-⑤「寄り道」

【Scene:5「親切はチョコレートの匂い」】 帰宅後。 室内着に着替えメアリーに髪を梳いて貰いつつ一息ついていると、お手入れの為に制服を預かりハンガーに掛けていたメイドのローザが声をあげた。 「お嬢様!」 「ど、どかしましたか?」 うわ、びっくりした。何事でしょう? 不思議に思って首を傾げると、彼女は1枚の名刺を手に目を見開いている。 「あ、それ……」 しまった、エナちゃんのお母さんに頂いた名刺、そのままにしちゃってました。 社会人としてダメダメじゃないですか、私ったら。 「ごめんなさい、入れっぱなしにしてて……」 「いえ、それより!お嬢様は、“メルリーニ”にお知り合いがいるんですか!?」 「メルリーニ?」 はて? なんでしょ、それは。 聞いた事のない家名だけれども。 もしかしてエナちゃん、有名な人のご息女だったとか? 目をパチパチしていると今度はアイロンを持って来たアンが反応する。 「“メルリーニ”!?すごいです、お嬢様、いつの間に!?」 「はあ……」 すごいんですかね、それ イマイチ会話に着いていけず困っていると、私の髪を整え終わったメアリーが苦笑交じりに教えてくれた。 「最近、良家のご令嬢方に流行りのチョコレート専門店だそうです。薬草やフルーツを使った珍しいものを扱っていて、見た目は宝石の如く美しく、大層美味で、且つ美容や健康にも良いと評判なんだとか」 「予約にも限りがあるから、毎日長蛇の列なんですよ!」 「整理券もすぐ無くなってしまうって有名です!」 「へぇー」 じゃあエナちゃんのお家はショコラティエだたんですね。 「…ん?ショコラティエ??」 そこで私はふと首を傾げる。 ある疑問を浮かべながら窓辺のソファーで目を閉じ、ゆったりと寛いでいるルーちゃんを見る。すると 「なんだ」 ルーちゃんが目を開けた。 その手にはいつの間にやら大きな箱が収まっており、彼は珍しく鼻先を近付けフンフンと機嫌良さそうに匂いを嗅いでいる。 蓋は空いているので、どうやら空き箱みたいだけれど。 帰宅した時に届いていた箱。 そう言えば、誰から届いたのか聞いてない。 メアリーが「ルーちゃん様に」と言っていたのでそのままにしてましたけど、思えばルーちゃんに贈り物が届くというのも初めてです。 「ルーちゃん、それ、誰から?」 「あ?やらねえぞ」 興味本位で尋ねると彼は箱をしっかりと抱え込んだ。 「お前のはそっちにある。これは俺のだ」 「そんなしっかりガードしなくても取りませんよ。………え?私にもあるんですか?」 はて? 首を傾げるとメアリーが小さな箱を持って来る。 「こちらはお嬢様に」 「ありがとうございます。で、何方から?」 「宛名にはリエーナ・スルツカヤと」 「リエーナ?」 はてはて? 知り合いにそんな名前の人いませんけど。 首を捻りながらも箱を受け取る。そこで、私は差出人に思い当たった。 「あ」 綺麗な緑色の小箱にはメッセージカードがついており、クレヨン書きのつたない文字が並んでいる。 ソラちゃんへ エナより 「リエーナ……エナちゃんだったんですね」 大きさもバランスも悪いのに、ほっこりと温かみのある文字を見て顔を綻ばせる。 私たちは1度塔に戻って定時まで仕事をしていたから、その間に届けてくれたのだろう。 上品な白い花のコサージュが付いた黒のベルベットリボンを解き蓋を開けると、そこには非常に繊細で精巧な形に成形されたチョコレートが並んでいた。 「美味しそう!」 でも食べるのが勿体無いくらい綺麗。 ガナッシュチョコレートの上に乗せられているのは飴細工だろうか。大粒のダイヤモンドのようにキラキラとした輝きを放つそれは1粒だけでも存在感がある。 他にも真っ赤な薔薇のチョコレート、雪の様にフワフワとした見た目のチョコレート、鮮やかなグリーンと濃厚な黒のチェック柄のチョコレートなど、バラエティに富んでいてケースに入れて飾っておきたくなるくらい。 メアリーがお茶をいれてくれたので、勿体無いなーと思いつつも1口頬張ると 「!!」 もう幸せ。 これ、なんでしょう。 シャンパンのガナッシュ?いや、でもそれにしてはお酒特有の鼻腔を撫でる様な風味がない。けれど高級シャンパンの様に華やかで爽やか。そしてチョコレート特有の濃厚なカカオの香りと甘みが広がる。 「はぁ……」 思わず溜息。 暫く目を閉じて余韻に浸る。 幸せ。 「これ、何のチョコレートなんでしょう?」 ワクワクとした疑問に瞳を輝かせると、ルーちゃんが空っぽの箱に鼻先を近付けたまま、ご機嫌で尻尾を振りつつ教えてくれた。 「コウゲンリュージュだ」 「コウゲンリュージュ?って、あの薬草ですか?東方のカンポウ……頭の痛い時に飲むお薬に使う?」 「ああ。で、赤いのはデルマプレゾン」 「南方の薬草ですね。でもあれ、すっごくキツい匂いがするのに」 驚くべき事に、チョコレートには薬に使う薬草が使われていた。どれも薬にすると独特の臭いがして私は苦手なのだけれど、それがこんなに美味しいお菓子になるだなんて。 「不思議ですね」 「ああ」 「ねえルーちゃん、もしかしてエナちゃんからチョコレートの香りがしてたから助けてあげたんですか?」 「まあな。最初尻尾汚した時ははっ倒そうかと思ったんだが……嫌いな匂いじゃなかったからな。だから、まあ、何となく拾った」 「あ、やっぱり」 ルーちゃんが人間の子供に優しいなんて可笑しいと思いました。 謎が解けて苦笑いをすると、彼は満足そうに箱の匂いを嗅ぎながら答える。 「当たり前だろ。俺が何の見返りも無く人間助けると思うか?」 「ですね」 とはいうものの、チョコレートの匂いに惹かれただけで親切な行動をするほど彼は打算的ではないように思う。 ルーちゃん自分じゃ言わないけど 優しいところ、一杯ありますもんね 私と出会った頃もそう。 口では文句を言ったり叩いたりしながらも見捨はしなかったし、私が困った時、悲しい時、怖い時、いつも傍にいて背中を押し、ずっとずっと見守ってくれていた。 エナちゃんにしてもそうだ。 なんだかんだ言って自分より弱いものには寛大だし、「ヒナ(子供)は嫌い」と公言する割に面倒見も良かった。 泣いている小さな女の子を、嫌いな人混みに分け行ってでも母親の元へ送り届けようとするくらいには。 案外、慣れてしまえば子供と遊ぶくらいの事はするんじゃないかとも思う。 ルーちゃんってば、実は隠れお人好し? いや、竜だから隠れお竜好しかな? 本人は否定するだろうから、そこは指摘しないでおくけれど。 「ルーちゃん、今度エナちゃんのお家に遊びに行きましょう」 「めんどいからやだ」 「またまたー。ルーちゃんの大好きなチョコレート、一杯ありますよ?」 「なら、行ってもいい。……気が向いたらな」 「はい」 素っ気なく鼻を鳴らし、ルーちゃんはまたソファーに横になる。 しかし私はちゃんと見ていた。 彼が貰ったチョコレートの空箱を潰さないように、そーっと顔の横に置き、満足そうに目を閉じたのを。 ~Fin~
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