第2話 カースド・プランセス

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 俺は彼女の前に跪き、勝手にその片足を手に取る。そのとき、彼女の足裏が、ひどく硬くて乾燥し、変容していることに気付いた。が、特に勘案せず、その小さな足に赤い靴をはめる。サイズはぴったりなようで、すっぽりと嵌った。  メルセデスを見上げると、当の本人はいまだ茫然自失の体で、靴を見つめている。 「どうした? 赤は嫌いか?」 「……違和感があるわ」 「履き慣れてないのか?」 「靴なんてほとんど履いたことないもの」  まさか「履いたことがない」は、的外れな回答だった。  メルセデスはどこか哀愁漂う面持ちで、俺に問う。それは、今まで高飛車な態度ばかり取っていた彼女から、初めて見せられた別の表情だった。 「汚いでしょ? 私の足」  ほとんど靴を履いたことがないなら、この有様は合点がいく。  恐らくだが、原始人の足ってこういうフォルムなんじゃないかと思う。骨もまるで変型しているようで、皮膚の硬さも尋常じゃない。素足でバレエを踊っていたせいで、爪足はボロボロだ。あちこちを裸足で歩き、血が滲むような生活をしてきたのだと考えると――。 「いや。お前の苦労が伝わる、逞しい足だ」  そんな言葉が、口から出て行った。  メルセデスは、言葉を失っていた。  互いの間に、しばらくの沈黙が流れる。 「……いらないわ。心地が悪いもの」 「せっかく買ってきたのに、勿体無い」 「別に頼んでないのだけれど」 「まったく、可愛げのないお姫さんだ」     
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