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依頼主が殺して欲しい対象は、このオークションに毎年参加しているらしい。今宵も例の大物を狙ってやって来るはずだ。
派手に着飾られたステージの照明が落とされた途端、観客の声が水を打ったように静まり返った。
俺は寂々たる会場を移動し、壁にそっと背を預ける。ステージの中央にスポットライトが投じられるが早いか、目をあちこちへと凝らし、闇に包まれた会場でターゲットの姿を探る。だが、この数え切れないほどの客の中から、たった一人を捜し当てるのは難解だ。仮面を被っているのなら尚更。
というのも、標的の顔写真も名前も知らされていない。依頼主は何か弱みでも握られているのか、与えられた当の本人に関する情報は微々たるものだった。ターゲットは必ずこのオークションに来ること。本日の“目玉”を狙っていること。そして中年男性であること。しかしながら中年男性なんて、この闇の社会ではうじゃうじゃいる。
「今年は盛り上がってるねぇ」
観客が拍手を送る中、おそろいの面を付けた一人の男が俺に近寄り、声を掛けて来た。
「さっぱり分からないな。大金を払ってまで、人を買い取りたいものか?」
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