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『氷筍姫の後悔』①
『氷荀姫の後悔』
――アナタは、彼女になれるのよ。
女は、俯く少女にそう囁いた。
――悩む事など何もない。ただ、代わりたいと望むだけ。
その言葉は、甘美な誘い。
少女の心に、まるで蜘蛛の糸の如く声が絡みつく。
――ほら、こう考えれば良いのよ。老い先短い彼女を、アナタが救って差し上げる、と。
それは泥ついた地の底から極楽浄土まで引き上げる、光明の糸。
――彼女は生き永らえ、そして彼は、アナタのもの。誰も、不幸にはならない。
少女の前に差し伸べられた糸は一筋。
少女の心を照らす道も、ただ一筋だけ。
故に……。
蛇の少女は、人を喰らった。
「わらわは、後悔なぞしたことがないのじゃ!」
立ち上がった少女は胸を張って、声をあげた。
それは古い童の頃の記憶。
村のそばの森で遊んでいた、ある日のこと。
ふとした話のきっかけに、彼女が発した一言だった。
「こー、かい? またむつかしいはなし?」
少年は、聞き慣れない言葉に首を傾げ、隣のもう一人に視線を送る。
「こうかい。あたしも、きいたことはあるけど、よくしらないわ」
彼の隣に座り、花冠を編んでいた少女も手を止め、顔をあげた。
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