21人が本棚に入れています
本棚に追加
「そ……それは、以前と少し感覚が違っただけで……」
「ほーら、つかえない。いいわけみたいに、こうかい? なんてことばつかいだして」
「ぐぬーっ、いろは! き、貴様っ、もう容赦せぬ!」
「やるっての? そのかお、どろだらけにしてやるわ!」
いろは、と呼ばれた少女は、花の束を投げ出し、代わりに近くにあった泥を手に睨みつける。一触即発の気配に、慌てて少年は仲裁に入る。
「ちょっとふたりとも、け、けんかしないで」
「なによ、口だしするき!?」「うるさい、あっちで花でも摘んでおれ!」
「ひいぃ……」
二人に睨まれ、青くなってへたり込む少年。瞳の端には涙が滲んでいた。
一見すれば森の木陰で戯れる三人の童。
へたり込む少年は、武芸者として名を馳せた父を持つ、決して貧しくはない家のせがれ。
花の冠の代わりに泥を構えるのは、村の地主の一人娘、いろは。
そしてもう一人。
そんな二人の童衣も霞んでしまう、薄桃色の絹衣を着た少女は――。
括っていても、一本一本がそよ風にもなびくような黒髪。
肌は、毎日外で遊び日に焼ける二人と異なる、雪氷の如き白。
時折世間知らずな事をしては、指摘されて鬼灯のように頬をむくれさせた。
最初のコメントを投稿しよう!