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激昂したいろはの平手が、つららの脳天に思い切り叩きつけられた。
「うっさいうっさい! 言ってないったら言ってないんだからっ!」
「殴った! きさま今殴ったな!? こ、この英知あふれるわらわをっ!」
涙あふれる瞳で相手を睨みつけ、声をわななかせるつらら。
「ええなぐったわよ。えーちだかなんだかしらないけど、もっとやってほしいならいくらでも――きゃっ!?」
「ほっほっほ、頭がお留守な猪娘は、足元までお留守のようじゃのう!」
不意を突かれ足払いをかけられたいろはは、泥のついた頬をひくつかせる。
「やったわね、このっ、ばかつらら!」
「ぬ、きさま馬鹿と申したな、今、馬鹿と申したな!? この阿呆がー!!」
「ばかにばかって言ってなにがわるいのよ、ばーかばーか!」
「また言いおったこの阿呆ー、阿呆ーっ!!」
ついには取っ組み合いの喧嘩を始める二人。
「ね、ねえー、仲よくしようよぉー、ふたりとも……」
少年のか細い声は、彼女たちの罵り合う声にかき消されてしまう。
やがて、着物を泥まみれにした二人が力尽きるまで、その不毛な争いは続いた。
「――もうそろそろ、かえるわよ」
山間に沈む夕日。烏の声を背に、いろはが立ち上がる。
「えー、あとちょっとでできそうなのに……」
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