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1.
顔を上げて見ると、まだまだ坂道の終わりが見えてこなかった。
横を見ると、スーツを着た恐らく40代であろう男性も額に汗が滲み出ていた。
まだ5月だし、今日は特別暑い日でもない。
それでも、この急勾配な坂を登るだけで体内の温度が上がる。
熱い!
これなら車で連れて行って貰えば良かった。
わざわざお願いしたのだ。
駅までの道を見ておきたい、と思った私は「車ではなく、歩きでお願いできますか?」
と、言った。今日実際に歩いて、わかった。40代であろうこの不動産の男性が最初、少し渋った理由。確かにこれはキツイ。
でも、今日内覧するアパートに決めたら、どちらにしろ私はこの坂道を歩いて登ることになる。それも毎日。
ため息が漏れる。
「ははは、ちょっとキツイですよね、この坂。でも今日の物件は本当に素敵な所ですから、綿貫様もきっと気にいると思いますよ。」
不動産屋の男性は一息に言うと、ゼーゼーと息を切らしていた。
駅から15分と聞いていたが、まさか坂道を15分間も登るとは思いもしなかった。
これはやめておこう。
そう思った時、一歩前を歩く、不動産屋がまたまた息を切らしながら言った。
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