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「そうですね。ここからへんは大きな公園やお寺が途中にあって、少し地形が複雑なんですよ。あの道が駅からは一番近い道なんですよ。少しキツイ坂ですが、綿貫様はまだお若いんですから、慣れますよ。大丈夫ですよ。」
不動産屋に大丈夫と言われたが、正直大丈夫な気がしなかった。
引っ越しは4月末になった。引っ越し業界はこの時期が一番忙しいらしく、予定していた3月末には予約が取れなかった。私はそれまでの間、会社のある都内へ実家から通った。毎日往復5時間の電車通勤。疲れていた。
だから、引っ越しの日が訪れた時は喜んだ。
このアパートからだと、会社まで往復1時間もかからない。
「すごい、良いところね。良かったわね、まあちゃん、こんな所が直ぐに見つかって。」
引っ越しの片付けを手伝ってくれた母もこの部屋を気に入っているようだった。
私も初めての一人暮らしに胸を躍らせた。
苦しみを味わったのは翌日。
会社からの帰宅。電車を降りた私を待っていたのは、あの急勾配な坂道だった。
仕事で疲れた体に更に追い討ちを掛ける。
15分が1時間に感じられた。
というか、気づいた。あの坂道は降りる時は駅まで15分で行けるが、帰り、登る時は25分位掛かる。まあ、私はもともと人より歩くのが遅い。
ヘトヘトになりながらアパルトメント白井の玄関を開いた。
ふと、背後に何か視線を感じた。
寒気がして、振り返ると大きい影があった。
「邪魔!」
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