自然のお茶会

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自然のお茶会

 音楽のように、フランス語を話す教授の、仏文学特別講義の聴講に来ていた。 うしろの席で真剣に聴いていると、突然大きな黒い影に覆われ、何だろう?こっそり影の方を見た。  フワフワの毛皮? いえ、そこにはむっくり大きな、茶色い月の輪熊が、もわっと座りに来ていた。 声も出ず、目をそらす事も出来ない。死んだふりがいいのか迷っていると、 ―ボンジュール 月の輪熊が低い声であいさつをした。 えっ? 「熊彦さん、お静かにね」 教授に叱られ、 ―すいません 熊彦さんと呼ばれた熊は、しょんぼりと席に座り、フランス文学のテキストをリュックから出すと、怒られたことも忘れ、瞳をキラキラさせ、熱心に講義を聞きはじめた。  私は、熊彦さんを気にしつつ、落ち着きを取り戻し、ようやく教授の仏文学の詩歌を、耳に心地よく聴いていた。 すると、熊彦さんの方から、すうっとミントのさわやかな、いい香りが漂ってきた。まるで森林浴みたい。うとうと、すとん。まぶたが落ちて、ふわふわ夢の中へ。  はっと気づくと、目の前には教授が困った顔で立っていた。いつの間にか講義は終わり、私と熊彦さんだけが居残っている。 「居眠りはヤメテネ」     
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