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私はあの子の隣に設置された自分の席に腰かける。テーブルの上に置かれていたオレンジにフォークを突き刺すと、パジャマの肘を軽く引かれた。あの子の仕業だ。見ると、こっちを向いて大きく口を開けている。「そのオレンジ、あたしによこせ」という合図だろう。なんでか知らないけど、この子はしょっちゅう私にこういうことを求めてくる。きっとパパとママがが二人してこの子を甘やかしているせいだ。
「ねえ、ママ、この子、私に食べさせてもらおうとしてるんだけど」
「朝ご飯、まだなのよ。オレンジ、食べさせてあげて」
「ええ……? 自分でもう食べられるでしょ。スプーンもフォークも使えるじゃん」
「食べさせてもらいたいんだろう」
「何それ。私だって誰かに食べさせてもらいたいんだけど」
例えば私がこの子とそつくりそのまま同じことをしたとして、パパとママはじゃあ、食べさせてあげようなんて思ってくれるんだろうか。……いや、それはない。絶対、絶対、ないのだ。確信している。
「ねえ、お願いだからあげて」
「そうだぞ、たまにはいいじゃないか」
それなのにパパとママは、そう言ってのける。お願い? たまには? どっちもおかしい。なんでママが連れてきたこの子のお世話、私が頼まれているの? たまには? しょっちゅうなんだけど。知らないパパじゃないはずなのに、どうしてとぼけるの。
……すごく、腹が立ってきた。
「ほら」
私はフォークをオレンジが並ぶお皿に置いて、あの子の前に押し出した。そうして立ち上がる。
「ええ? オレンジは?」
「ああしとけば勝手に食べるよ」
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