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「こんな話を知っている? 殺人犯が教会にたてこもったのよ」
珍しく、雪の降る日であった。
「シスターが人質になったんだけど、この人がずっと祈り続けてるの。イライラした殺人犯が『助かるわけねえ』というと、シスターは『あなたが救われることを祈ってる』って答える。つまらないジョークでしょう。シスター? もちろん殺されたらしいわ。目がくり出されて眼窩に精液がかかっていたって。この場合、どちらが勝ったのでしょうね」
長い黒髪が、吹雪にまきあげられる。
「だって、シスターは自分が助かりたいとは望んでいなかった。シスターの思想を殺人犯は否定できなかったのよ。暴力に訴えた時点で負け。殺人犯はシスターに、自分を殺させなくてはならなかったのよ。それをして初めて殺人犯は勝ち、面白いジョークになる」
その少女は、どこまでも美しかった。
雪の白のなかに黒髪と黒眼が浮かび上がる。
「だから、あなたの負けよ」
黒い少女は見下ろす。
雪に埋もれて白くなった少女は憎々しげに見上げる。
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