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水面は静かに語る
「ねえ、なんで?」
湖畔が見えたところで、ボクは立ち止まった。
メアリーがいない。
パパも、ママもいない。
「どうして?……おかしいよ、こんなの……」
まるで、足の先からボクの中身がどんどん抜けていくみたいな不思議な感覚に襲われた。
あの楽しかった時間は、一体何だったんだろう?
「だから言っただろ」
追いついたジョンが、ボクの抜け殻に声を掛けた。
「なんでこんなに簡単に捨てれるんだって、そう思うだろ?」
隣に腰を下ろしたジョンに聞かれて、ボクはゆっくりと頷いた。
「オレが世話になってたとこの親父がいうにはさ、命の重さが違うんだとさ……。可哀想に……。お前、まだ何も知らないんだろ?」
そう言うと、ジョンは立ち上がり、とても悲しそうな顔で
「本当のことを知りたいか?」
と尋ねてきた。
『本当のこと』がなんのことか分からなかったけど、ボクは「うん」と頷いた。
だけど。
「じゃあ、ここを覗いてみろ」
とジョンに促されるまま水面を覗いたことを、ボクは後悔した。
だってそこに写っていたのは、なんの感情も読み取れない、犬の顔だったのだから。
END
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