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 結婚してからも彼女は周期的に窓から身を乗り出し、泣き叫んだ。そして三回ほど本当に飛び下り、エアーマットの上でひきがえるになった。  ビルの管理人はそのたびにバーに現れては、困った様子で愚痴をこぼした。 「低すぎるんだよ!」 管理人は言った。 「本当に死にたいなら、誰もいないときに、もっと高い階から飛び下りればいいんだよ。そうすれば確実なのに。あんな低い階からエアーマットに飛び下りてもしょうがないよ!」  ある日、管理人はカウンターでたまたま居合わせた窓拭き職人と何やらぶつぶつ話をしていた。そして、二人は意気投合して酔っぱらった足でふらふらしながら店を出ていった。  しばらくして管理人と窓拭き職人のふたり組は「飲み直し!」と言いながら、夜遅く戻って来た。職人の手や服は黄色いペンキで汚れていた。
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