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次の日の夕方、店の準備をしていたバーテンは、窓の外のビルの中ほどに、黄色の線が引いてあるのに気が付いた。それはちょうど例の二人の部屋の階と、その上の階との間に引かれていた。
夜になって、バーでは謎の黄色い線の話でもちきりだった。いったい誰が何のために引いたのか知る者はいなかった。ちょうどそのとき、ビルの管理人と窓拭き職人がやって来た。バーテンは昨晩、職人の手が黄色く汚れていたのを思い出し、問いただした。既に酔っぱらっていたふたりは、げらげら笑いながら説明した。
「あれは、死の境界線だ!」
管理人は言い、職人が続けた。
「あの線より低い階からと飛び下りても死なねえってことを、今後の自殺志願のみなさまにお知らせするんだよ!飛び下りるときは、あの線より上の階から、エアーマットが来る前にお願いします!」
そう言って、二人はまたげらげらと笑いだした。
黄色い線の噂を聞いたのか、それから女は飛び下りなくなった。バルコニーに出ただけで、広場にいる人がにたにた笑い出したら、飛び下りる気も失せるというものだ。管理人の作戦はまんまと成功し、以降そのビルで身を投げる者はいなくなった。
バーテンは話しを続けた。曰く、例の窓拭き職人が仕事中に誤って転落したが、境界線より下だったからか、辛うじて命拾いをしたとか、しばらくは市の条例により、その境界線より高い建物は建てることができなかった、等々・・・。
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