キズ色カフェタイム

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「独りの時間や沈黙の時間を嫌わない人が相手だと、わたしも気が楽だ。ああ、珈琲をブラックで」  カウンター越しに置かれたお冷と引き換えに、色気もそっけもない注文をする。彼が少し笑って、わたしよりも長く伸ばした髪をしなやかに揺らした。 「ですます調をやめたら男っぽい言葉遣いになるって、本当なんですね」 「家族としゃべるときは、これに方言が加わるから、もっとひどいよ」 「幕末のきりっとした文章を書く人というのが第一印象だから、それほど意外ではないんですけどね。背も高いしファッションも男装っぽいし、独特の雰囲気がありますよね」 「分析ありがとう。普通じゃないことは、とっくに自覚してる」  わたしはグレーのコートを脱いで畳んで、隣の椅子に載せた。細身のボートネックシャツにだぶついたジーンズ、ピアスだらけの両耳で平日の昼間に喫茶店に居座ったりすれば、どう頑張っても堅気には見えないから、ミュージシャンかと訊かれることが割とある。  わたしはその問いに否と答える。歌うことがないとは言わないが、単なる趣味だ。本業はフリーランスの物書き。まあ、いずれにしても堅気ではないから、世間の目からすれば大した違いはないだろう。     
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