プロローグ

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プロローグ

ーーーあの人が僕を好きになることは、きっとない。 だけど、僕には魔法があるから大丈夫。 * * * スマートフォンのような機械が製造されて、当たり前のように、ほとんどの人が持っている時代が来るなんて、きっと昔の人は思ってもみなかっただろう。 「昔はタッチパネルなんて銀行のATMくらいしかなかったのにね。まさかこんなに精度の高いものが現れて、あっという間に行き渡るなんて、当時は驚いたものだわ」 そんなことを母はよく言っていた。 新しいものが普及するのは、あっという間だ。 それと同じように、魔法が当たり前に存在する時代が来るなんて、僕も子供の頃は思ってもみなかった。 だけど、それは突然現れて、いつのまにか世間に浸透していった。どうしてそうなったのかは調べれば分かるかもしれないけど、それにはあまり興味がない。 僕にもし、悠長に魔法の仕組みについて調べる余裕があったなら、興味を持っていたのかもしれないけれど。 大抵の人はスマートフォンの仕組みや歴史を理解せずに使っている。理解していたら、多少便利に使えたり、壊れた時に役に立つかもしれないけれど、それくらいだ。 魔法が普及しはじめたのは、僕が高校にあがる頃だ。僕もクラスメイトもみんな夢中になった。 だけど、大人になって、人前で魔法の話をするのは避けた方がいいことだと悟った。 「魔法…?ああ、『おまじない』のことね」 賢そうな顔をした大人は笑って言う。「おまじない」のところを、やけに強調して馬鹿にしたように。 世間的に、おまじないを魔法と呼んで夢中になるのは子供、もしくはいつまでも子供でいたがる頭の弱い大人ということになっている。 そう思われるのは仕方ないのかもしれない。この世界の魔法は、「魔法」と聞いて想像するものより頼りないものだから。子供向けの本に書いてある「おまじない」の方が事実を的確に表現していると言えるだろう。 この世界にあるのは、ファンタジーに出てくるみたいに炎や雷を出せたり、不老不死の願いを叶える魔法じゃない。 だけど、特定の人にとっては、とても重要で切実で数少ない救いの手となるものだった。 僕みたいに叶わない片思いをしているような人間にとっては。 ーー僕がこれから使おうとしているのは、恋の魔法だ。
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