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そして数十日が過ぎ、委員会で帰るのが遅くなったある日のことだ。
たまたま教室には私と若竹さんだけが残っていた。
ドアに向かおうとする足を止め、帰り支度をする彼女の机に歩み寄る。
「今帰るの?」
「うん」
猫のように冷めた目が、動揺もせず私を見た。
話すのは初めてかも知れない。
私に限らず、彼女が誰かと雑談しているところを見たことがなかった。
「若竹さんて、あんまりほかの人と話さないよね」
「うん」
「今日ちょうどセール日だし、一緒にアイス食べに行かない?」
「なんで急に」
怪訝そうに目が細められる。
彼女と友達になったらどんな顔で笑ってくれるのだろう。
「実はさ。若竹さんも興味あるかなーと思う話があって」
「何それ。宗教?」
「違うよーもう」
軽く肩を叩く。
嫌がられはしなかったが、表情がほぐれることもない。
「実はね……サプリ飲んでからすごく調子良くなって」
村重さんが私にしてくれたように、私は『友達サプリ』を若竹さんに教えた。
今のコミュニケーション力はサプリの功績だと告白するのは恥ずかしかったけれど、村重さんだってそうだったはずだ。
バラされたり拒否されたりする恐怖をはねのけて、私を救ってくれた。
「――ほんとに一回飲むだけで効いたし、具合悪くなったりとか全然なかったの。嘘って思うかもしれないけど」
「それで、その話をして宮野さんはどうしたいの?」
いまだに若竹さんは無表情だ。
「この話を聞いたら、きっと安心してサプリ飲めるのかなって。私、思い切って飲んで幸せになれたから」
「……ああ」
理解した、というように彼女は頷いた。
考えるように視線を外したのち、再び私の目を見る。
「私は要らない。ほかの人当たって」
「えっ、なんで? 一人ぼっちよりみんなでいる方が断然楽しいよ?」
「そう」
「高いし、怪しいって思うだろうけど……でも、本当に本当だから」
「知ってるよ」
え、と聞き返す。
「『友達サプリ』のことは知ってる。あんた以上に」
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