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どういうことだろう。若竹さんはもう飲んだのだろうか?
しかし、とても効いているようには見えない。
「だけど飲まない。タダだとしても無理」
「なんで?」
「さっき言った。宮野さん以上に知ってるから」
やはり分からない。
なんと返そうか迷っていると、若竹さんが静かに問うた。
「……『友達サプリ』がどうして効くか、知ってる?」
「ううん。薬学的なメカニズムの話?」
「あれが薬物だったらそうだろうけど。化学物質を一回採っただけで劇的な精神変化がずっと続くって、不思議に思わない?」
「でも、ちゃんとした薬だから効いたんだよね? ただの思い込みにしては効きすぎだし」
沈黙が流れる。
窓の向こうで、男子生徒の笑い声が聞こえた。
友達同士でふざけ合っているのだろうか。
以前は何となく神経に障ったけれど、今では好ましいとさえ思う。
笑い声が響いてこその学校なのだから。
「……トキソプラズマって知ってる?」
唐突に若竹さんが口を開いた。
「プラズマ? 分かんないけど、電気関係の用語?」
「ううん、寄生虫。猫とかの中によくいる」
「そうなんだ」
なぜ突然話題を変えたのだろうか。
それとも、この話も友達サプリに関係があるのか。
「この寄生虫は鳥やネズミなんかにも入り込むんだけど、有性生殖できるのは猫の中でだけなの。だから、感染したネズミは猫を怖がらなくなる。そうすればネズミは猫に寄生虫ごと食べられて、猫の中に入れるから」
「ふーん」
「つまり、この寄生虫はネズミの本能を歪めるの。しかもネズミだけじゃない。
トキソプラズマは、感染した人間の性格まで変えられる」
「……え?」
「たまにカゼっぽい症状が出る人もいるみたいだけど、ほとんどの人は感染しても自覚症状がない。ただ問題はそこじゃなくて、人間の場合もネズミみたいに恐怖心や不安感が減るってこと」
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