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「まさか……もしそうだったとしても、それならむしろ好都合でしょ」
「そうだね、感染者の女性は外交的でフレンドリーになったからモテるなんて言う人もいるみたいだし。男性の場合は内向的で疑り深くなるらしいけど」
まさか、サプリの正体は寄生虫の卵だったとでもいうのか。
だから一度飲むだけで効いたのか?
しかし、たとえあれがトキソプラズマだったとしても私は女だ。
女なら、デメリットなんてないはずだ。
「ほかにも、危機感を感じにくいから交通事故に遭う確率が二倍になったり、精神病になったり自殺したりする確率が高くなったりする。
メリットばっかりじゃないの。
当たり前だけど、この寄生虫は人間の役に立とうとしてるわけじゃなくて、自分の住みやすいように人体を改造してるだけだから」
手のひらを胸に当てる。
――この身体、私の中に。
何かが巣食い、内側から食い散らかして、元の私ではない何かに造り替えているのか?
「そ……そうだとしても」
大したことじゃないと自らに言い聞かせつつも、私の声が震えている。
「治療すればいいんでしょ。もうたくさん友達を作ったし、すぐ病院に行って駆除してもらえば――」
若竹さんが静かに首を振る。
「二つ問題があるの」
私は、目の前に立てられた二本の細い指を見つめた。
「一つ目は、トキソプラズマがもたらす行動変化は永続的な可能性があるってこと。
もう一つは、あなたの中にいるのがトキソプラズマではない可能性が高いこと」
「どういう意味……?」
「ネズミの実験では、トキソプラズマを駆除しても猫にすり寄っていく行動は治らなかったの。つまり、一度寄生虫に改変された身体はもう元に戻らない」
「私にいるのがトキソプラズマじゃない、ってのは……?」
「トキソプラズマの終宿主である猫は人間にとって身近な存在だから、意外と感染者は多いの。だからサプリなんて言って高額で売り買いするほどのものではないし、ここまで変化が劇的じゃないのも分かってる」
「じゃあ……私の中にいるのは一体なんなのよ!」
「さあね」
氷のような眼差しできっぱりと言い切る。
「こんな妙な寄生虫なんて、私は知らない」
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